SEって何?

SE(システムエンジニア)という職業は、日本特有のものらしい。
そして、私はいくつかの会社を転々として、SEにたいする認識の違いに驚いた。
ある職場では「コンピュータについて何でも知っている人」、ある職場では「ソフトウェアしか知らない人」、ある職場では「ハードウェアのことを知らない人」、ある職場では「何にも知らない人(バカ)」、ある職場では「エンドユーザーのこと」というように。
そして今書いた順序は私が転々としてきた順序でもあり、おもしろいことにどんどんSEの権威が落ちている。それは、ソフトハウス(これも死語か)から電機メーカーという風に徐々にハードよりの仕事になったせいもあるだろうし、時の流れにつれてSEという仕事の内容も変わってきたせいもあるだろう。

ただし、この業界では(ほかでも同じかもしれないが)、分担しているそれぞれの職務をバカにする傾向がある。SEというのは設計をしてプログラマはコーディングをする。
SEは、「自分の仕事は上流工程であり、プログラマーは自分の設計を実装させているだけだ」と思っているし、プログラマは「SEはユーザの要望をプログラマに伝えているだけであり、実際にシステムを作り上げているのはプログラマだ」と思っている。お互いを馬鹿にして、憎みあっている。
ソフトウェアとハードウェアのエンジニアの間にも似たような現象が見られる。営業とエンジニアでもそう。
そして、それらのお互いへの蔑視と憎悪は、100%偏見であり根拠のないものであると言い切れる。
とても恥ずかしいことで、それが強いプロジェクトほどろくなものができない。

私はソフトウェア寄りなので、ハードウェアを馬鹿にする傾向がある。「コンピュータなんてただの計算機だ」と、最初に勤めた会社で1年契約社員で働いたあと正社員になるときの面接で言って、あやうく落とされそうになった。
今でも、ソフトウェアあってのコンピュータだ、ハードウェアのことを意識しないとプログラミングができないような言語やOSはダメだ、という意識がある。
だから、Windowsはすばらしいと思っている。IEとOutlookExpressを使っている。
Linuxなどは仕事などでどうしても必要な時にしぶしぶ使うだけである。

多分、SEという業務は外国ではコンサルタントのことではないだろうか?
実際、日本でもSEのようなことをする、つまりソフトウェア開発をする人がいるらしい。
私もSEの端くれをしていて思っていたのは、SEとはコンピュータやソフトウェアのエンジニアではなく、究極はある会社の業務をどうやって効率化し自動化するかを考える人、つまりコンサルタントではないか、と思った。ITはその道具に過ぎないと。
それは、ある面接の場で実際に口にしたこともある。「ゆくゆくはコンサルタント的な仕事をしたい」と。
その時は「コンサルタント」がどういう仕事なのかよく知らなかったのだが、日本で「コンサルタント」というと、超高学歴の人がやる超多忙超高収入の仕事であることを知って、自分がコンサルタントをしたいなどと30すぎて職にもあぶれている立場で言うことではなかったのだと恥ずかしくなった。

SEには過度な期待をしていたのだが、実情はとても「エンジニア」などと呼べるような技術職ではないとすぐに幻滅した。コンピュータサイエンスもアーキテクチャも知る必要はない、数学も必要ない、16進数や2進数もほとんどいらない、こんなの誰でもできる、「開発」なんてシロモノじゃない・・・

「SEは文系の仕事だと思いますよ」
これはもうSEを辞めかけているときに、先輩に言った言葉である。
実際、そのときしていたSEには、プログラミング技術とかハードウェアの知識よりも簿記会計の知識のほうが必要だと常々感じていた。

しかし、それをコンサルタントと呼ぶかSEと呼ぶかプロジェクトマネージャーと呼ぶかバカとよぶかはともかく、必要であることは間違いなくて、どうやら現在そういう人が不足しているようだ。CとかJavaとかのプログラマーはそこそこいるが、プロジェクト全体を仕切るような人材がいないらしい。まあ、最初からそんな事ができるやつなんかいるわけないが。

私の時代にはプログラマがえらくなってSEになる、という順序だったのだが、
今はプログラミングは勉強だけして、業務ではコーディングはしないというSEが増えているらしい。

そして、現場の実情を知らない学歴だけある高慢なSEやコンサルタントと、プログラマ達の誤解と憎みあいは、どの職場にもあるようである。

しかし、私はSE的な仕事は、経験はないが高学歴な人がやるしかないと思う。高慢なくらいでないと勤まらないだろう。それくらい理不尽で不合理な仕事だ。

ある工程に特化したエンジニアの言うことは確かにスジが通っていて、SEの無理難題に反発するのももっともに見える。しかし、エンジニアがそれぞれの工程に専念しているだけでは何も生まれない。逆に言うと、全体を統括して仕切る人がいるから、エンジニアたちは他の工程を気にせずに「スジの通った」事だけを気持ちよく鼻歌交じりにやっていられるのである。

私はそういう「不平不満を言う職人達」とそれをなだめすかして動かす人たちの板ばさみを経験している。
一般的に「スジの通ったことしかしない専門職」はブルーカラーなどと呼ばれて待遇が悪く、学歴も低いひとがやる傾向にある。
だから彼らは「学歴があってもこんなことも知らない」とか「大学の勉強ができたって仕事ができるとは限らない」などとグチるのである。

私は今、そういう曲がったことは大嫌いな職人みたいな人たちと仕事をしているのだが、
自分の考えを整理して明らかになったのであるが、そういう人たちは私がもっとも苦手とする、軽蔑するといってもいい、天敵なのである。だからつらかったのである。